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これは、僕達星崎家が銀誓館に通う前のおはなしで。
5人兄弟末っ子である僕――星崎和音と友達のクロムとのおはなし。






魔法使いと猫と夕陽のある風景。





「散歩に行って来るね」
兄(にぃ)や姉(ねぇ)にそう言って、家を出る。
魔法の力で猫になってから。


魔法は、いつの間にか覚えていた。


ずっと小さい頃のこと。
何気なく触れた本を手に取ったら実は魔術本で、それをずっと読んでいた。
だから、だと思う。
呪文を覚え、やり方も覚え、箒で空を飛び、魔法を使えるようになり…
いつの間にか、魔法使いのようになっていた。
ううん…僕は、魔法使いになれてたんだ。
その後、『魔弾術士』と呼ばれることになる、魔法使いに。



ちなみに、初めて覚えた魔法は…猫の姿へ変身出来る魔法。



ただでさえ小さい身体が、更に小さくなった。
毛並みは僕の髪と同じ、青よりの青緑色。
瞳は僕の瞳と同じ、空のように青い色。
結構珍しい色をした猫だと思う。どうやら、他の毛並みの色にも、瞳の色にもなれないみたい。
それは元からなのか、それとも僕の技量不足なのかは分からない。



ただ、僕は…猫のまま、歩いていきたいだけ。
人としてでなく、猫としての視点から見た世界を見たいだけ。
壁の上を歩いたり、フェンス柵をよじ登ったり、木の上から空を眺めたり。
たまには寄り道をして、新しい発見をしたりして。
僕は、新しい世界を見たかったのかもしれない。




そんな、ある日のこと。
僕がいつものように猫のままで散歩していたら…
お気に入りの木でまた夕日を見てから家に帰ろうと行ったら…


木のそばに、
先客がいた。


黒い毛並みをした猫だった。目つきはちょっと鋭い。
でも、僕が今までに会ったことのない、猫。
「こんにちは」
猫の姿のまま、僕は言う。
黒い猫はびっくりして、僕のほうを見た。
「あ…ごめん、驚かしちゃった?」
僕はそう尋ねたけど、黒い猫はふるふると首を振る。
……どうやら、逃げる気はないみたい。
僕はそのまま猫の隣に歩み寄った。

「ねぇ、何処からきたの?」
「名前はなんていうの?」
「どうやってここまで来たの?」

尋ねても、猫は何も言わない。
ただ、沈み始めた太陽を見つめている。
僕もまたじっと見つめる。


「ね…登らない?すごくいい景色見れるよ」


僕の誘いで、僕と黒い猫は木に登った。
猫だから、すぐに登れて、てっぺんまでいけた。


赤い夕陽が世界を紅く照らしてる。
木の葉も、木の幹も、僕らも紅く照らされてる。
「やっぱ綺麗だね…ね、そう思わない?」
僕はそう言うのだけど、黒い猫は何も言ってくれない。
「……物足りない?」
試しに尋ねると、またふるふると首を振った。
気に入ってはくれたみたい。




僕と黒い猫はずっと夕陽のある風景を見続けていた。
お互い何も話さず、何処にも行かず。
ただただ、ずっと、夕陽のある風景を、じっと、見つめた。




夕陽が水平線の彼方へと沈みかけていく。
そろそろ帰らなきゃ。
兄や姉に心配されてしまう。
「じゃあ…僕そろそろ帰らなきゃ…」
黒い猫に話そうとしたら、隣には誰もいなかった。
「あ…あれ?」
黒い猫の姿を見つけたくて、慌てて見回す。

見つけた。

いつの間にか、僕より高い場所にいる。
もっと高い場所から夕陽を見たかったのだろうか。
「だ、ダメだよ!落ちちゃうよ!」
そう言っても、黒い猫は黙ったままその場所にいた。
僕は慌てて細い木の枝を飛び移りながら登っていく。



やっぱり、もっと登ったほうがすごく綺麗な景色がある。
そんなことを考えてしまいながら、黒い猫のいるところまで駆け上がっていく。



やっと、黒い猫のいるところまで登ると、黒い猫は次の枝を渡ろうとしていた。
「だ、ダメだって…!」
歩く枝は細い。
黒い猫は身軽な動きでどんどん歩いていく。
「ねぇ!降りようよっ!」
声をかけても、何も反応してくれない。
それでも僕は追いかけたくて、その上を慎重に歩いた。
「も、もう少し…」
もう少しで、黒い猫に届く。
そう思って、自分の右手――ではなく右の前足を伸ばした。
その時だったんだ。




ぽきり。




「え…?」
軽くていやな音、そして…




一瞬の浮遊感と刹那の落下。




「う、わぁぁああっ!?」



落ちていく体。長いようで短い時間。
でも、それは黒い猫も同じこと。
隣で必死に足をバタバタさせている。
僕は慌てて前足で黒い猫の首根っこを捕まえた。
「―――――っ!!」
そして、強く目をつぶった。







痛みは、なかった。
それは何故なのか、その時の僕にはまだ分かっていない。
その理由を知るのは銀誓館に入学したときだったから。
目を開けると、目の前に黒い猫がいた。
「だ、大丈夫…?」
試しに尋ねる。
何も言わないけど、今度は首を縦に振った。
「よ、良かったぁ…」
自分が無事なのも良かったけど、何よりもこの黒い猫が無事なのが何よりも嬉しかった。
僕は起き上がった。黒い猫がひょいと僕の身体から下りた。
「……ん?え…あ…」
そうして、落ちてから初めて自分の《手》を見た。
猫、ではなく…人間の、手だった。
どうやら落ちていく途中で魔法が切れてしまったらしい。
黒い猫は何も言わないまま、僕を見つめていた。
「ごめん…騙すわけじゃなかったんだけど……僕、人間なんだ」
もう人間の言葉を話してる時点で猫じゃないってことは分かってるとは思うけど。
僕は黒い猫に向かって頭を下げて謝った。
けど、黒い猫は僕をじっと見つめたまま、

「にゃあ」

と小さく言ってくれた。
本当にそれだけ。猫の鳴き声だけ。
それが、僕にはすごく嬉しかった。




「ねぇ、君の名前はなんていうの?」
改めて、僕は黒い猫に尋ねた。
黒い猫は横にふるふると振る。
「……名前、ないの?」
今度は縦にふるふる。
「そうなんだ……
 あ、僕は和音。星崎和音っていうんだ」
今更だけど、名前を教えてあげた。
「ねぇ…なんて呼ばれたい?」
黒い猫は首をちょこっと傾げる。
そして、僕に寄りかかってきた。
小さな身体を僕の足に擦り寄ってくる。
「え…あ、もしかして……僕に決めて欲しいの?」
黒い猫は縦にふるふる。
「いいの?」
黒い猫はまた同じ行動をする。
「んー…それじゃあ…」





そして僕は名前のない黒い猫に名前を与えた。

『クロム』

それが、黒い猫――僕の友達の、新しい名前。







ある日の真夜中。
僕はいつものように依頼を受けて、ゾンビたちの退治に出ていた。
他のメンバーたちが戦闘態勢につくなか、僕はポケットから一枚のカードを取り出した。
イグニッションカード。
僕と、僕の友達の姿が描かれた、僕だけの戦いへの鍵。



「じゃあ、行くよ。クロムっ」
イグニッションカードにそう囁いて、僕はそれを空高く掲げ上げる。




「起動[イグニッション]!!」




瞬間、僕は魔法使いになれる。
箒を持った魔法使い、魔弾術士に。
そして、僕の隣には…
二丁拳銃を構えたウェスタン風なケットシーガンナー。
『クロム』という名前の、ちょっと無口な僕の友達。






今日も僕らは世界を護るために、戦います。
仲間とクロムと一緒に…ね?
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